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森沢明夫さん
「トーキン★カフェ」今回のゲストは、今秋公開の話題の映画「ふしぎな岬の物語」の原作である「虹の岬の喫茶店」の著者であり、小説・エッセイ・ノンフィクション・絵本と幅広い分野で活躍する森沢明夫さんをお迎えしました。映画でプロデューサーと主演を務めた吉永小百合さんとのエピソードや、原作の裏話まで、色々な話をお聞かせ頂きました。
※本取材は2014年9月に行ないました。
カフェトラ管理人クハラ(以下●)はじめまして。本日はどうぞよろしくお願いします。

森沢さん(以下■)こちらこそ、よろしくお願いします。

●僕は「ふしぎな岬の物語」の試写会のあとで、原作の「虹の岬の喫茶店」を読ませて頂いたんですけど、楽しさだったり、悲しさだったり、切なさだったり・・・実にいろんな感情が湧いてくる実に素敵な作品でした。

■ありがとうございます。

●そもそも、「虹の岬の喫茶店」が今回映画化になったのはどういった経緯だったんですか?

■以前、高倉健さんが主演された「あなたへ」という映画の小説を書かせて頂いたご縁で、映画祭の授賞式にプレゼンターとして出席させて頂いたんですが、僕が座ったテーブルがたまたま吉永小百合さんと同じだったんです。お話してみると読書が好きということでしたので、新しい本(虹の岬の喫茶店)をお送りしたんです。その頃ちょうど吉永さんが映画の原作にしたい本を探していらしゃってて、読んで気に入って頂いたんですね。それで、この作品を映画にしたいと。

●ということは、完全に吉永小百合さんの意向で映画化が決まったということですか?

■そうです。吉永さんがスタートですね。

●吉永さんの心に響いたのはどの辺だったんでしょうか。

■「人を幸せにするのは人であり、人と人とのつながりの中に人生の素敵な部分がある。それが原作に描かれているので、それをぜひ映画にしたい」とおっしゃってました。

●映画のパンフレットの中には「小説とは別の物語」と書いてありましたが、実際に映画と比べてみてどうでした?

■いとこが生まれた感じでしたね。

●いとこ、ですか?

■元々小説そのままにはならないと思ってたんです。成島監督から連作短編を映画にするのは難しいと言われたので、もちろん監督の好きなように変えちゃって下さい。お任せしますよ、と。成島監督には全幅の信頼がありましたし、吉永さんをはじめ、カメラの長沼さんなど、映画製作におけるプロフェッショナルが集結して作られてたので、僕が口を挟むところは何もないなと。脚本も事前に頂いたんですが、全く読んでなかったんです。いざ試写会で映画を見たら、7・8回吹き出して、3回ぐらい泣きました。原作と違うところはいっぱいあったけど、映画として良くなればいいと思っていたので。離れているけど、血は繋がっている。いとこぐらいの距離感で、もうひとつの岬の物語ができたなぁという印象でした。とても嬉しかったですね。

●なるほど。それでは、原作についてお尋ねしていきたいと思います。まず、僕が一番最初に気になったのが、小説に登場する「岬カフェ」は千葉県に実在する「喫茶 岬」というお店がモチーフになったそうですが、実際のお店は、作品の中の世界観と近いんですか?

■そうですね、まず、小説の中の建物や中の様子についてなんですが、喫茶 岬は一度火事で燃えてしまったんです。

●ええっ!!そうなんですか!?

■全焼して全く無くなっちゃったんですよ。ちょうど小説を書いてる途中に。それで、通っていたお店を小説の中に再現して半永久的に封じ込める事にしたんです。なので、建物は当時のままです。テラスも、ダルマストーブも、鉄でできた猫のオブジェも、そのままあったものをその通りに書きました。

●そうだったんですね・・・ちなみに実際の店主の方は、悦子さんのような方なんですか?

■それは・・・さすがに違いますね(笑)。なかなか悦子さんのような人はいませんね(笑)。

●確かに(笑)。全てを悟っているような人ですからね。

■でも、小説を読んだ人は、実際にいると思って期待して行ってるらしいんです。

●そんな極端に違う感じなんですか?

■小説の悦子さんは架空のキャラですから。元々のママさんも素敵で、僕は大好きなんですけど、悦子さんみたいな台詞は口にしない方です (笑)。

●なるほど。ではあくまでも架空の人物ということで・・・。森沢さんは元々コーヒーはお好きなんですよね?

■もう大好きですね。

●1日どれくらい飲まれます?

■昔はすごく飲んでたんですが、飲みすぎて胃がやられてしまって・・・(笑)。今では1日に2〜3杯ですね。

●普段は自分でコーヒーを淹れてるんですか?

■スペシャルティコーヒー豆を買ってエスプレッソメーカーで淹れてます。最近地元に自家焙煎のマニアックな豆屋さんが出来たのでそこでも良く買ってますね。

●小説の中のコーヒーを淹れる描写とかすごく細かいですよね。読んでるうち、これはかなりのコーヒー好きじゃないと書けないなと思ってました。コーヒー好きな人はこの描写を読んでるだけでも、きっとコーヒーが飲みたくなると思います。

■ありがとうございます。

●あと、バイクもお好きなんですよね。そういった意味では、小説にはご自身の好きな事やものが結構落とし込まれているんじゃないでしょうか。

■確かにそうですね。コーヒーもバイクも、あと釣りも好きなんで。

●しかし、僕、森沢さんって実はもっと年輩の方だと思っていたんです。そもそも喫茶店を題材に小説を書くなんて、きっと年輩なんだと勝手に想像してしまっていて。

■良く言われます、それ。何歳ぐらいに思ってました?

●50歳は越えているんじゃないかと。

■う〜ん(苦笑)。

●でも、作品の中のディテールとか、言い回しとか若いし、あれ?って思って、それでお名前をネットで検索して写真みたら、おぉーっと思って。随分想像と印象が違いました(笑)。

■あはははは!(笑)

●さて、またまた話は変わりますが、森沢さんは仕事柄いろんな場所に行かれていると思うんですが、その土地で喫茶店に行かれたりしますか?

■はい。もう、好きですね。東京でも打ち合わせの後に、ふらっとどっかへ入ったりとか。あとは、初めての場所で待ち合わせする時も1〜2時間早めに行って、喫茶店でお茶しながら本読んで時間をつぶしたり。喫茶店で静かに本を読むのが好きなんです。

●喫茶店を好きになったきっかけってありますか?

■元々僕は雑誌の編集者だったんです。で、編集者って都内のあちこち出歩くんですよ。打ち合わせの間とかに隙間時間がすごくあるんで、そんな時、喫茶店を探すようになって、一人で喫茶店に行くのが好きになりましたね。それまでは一人で喫茶店に入る事って無かったと思います。

●そもそも、編集者から作家になったのはどういう経緯だったんですか?

■編集者って実はすごく大変なんですよ。雑務が多い上、ストレスも多いし、人を使って、お金の計算とかもやらなきゃいけない。そういったことが苦手で。むしろ末端で文章書いている方が向いてたんです。

●毎回様々なジャンルの作品を執筆されているのですが、そのテーマはどうやって決めるんですか?

■依頼が来てからテーマを考えるのではなく、実は日常の中でアイディアっていっぱい降ってくるんです。それを書き留めてます。今でも30個くらいネタありますよ。今回は実際に岬の喫茶店に行った時に、ここを舞台に作品を書きたいなぁって思って、ママさんに「いい?」って言ったら、「どうぞ」って言われて。ちょっと、そっけない感じで(笑)。

●あははは。まさか本当に作品になるとは思ってなかったでしょうね。

■思ってなかったと思いますよ。「そういえばそんな事言っている奴がいたなぁ」程度の感じだったと思います。それから1〜2年は別の仕事があったのでそっちを優先して、ようやく書けるタイミングが来て。2ヶ月くらいで7割以上書き終えてたんですが、その時点でお店が火事になってしまって。当初は作中の喫茶店の建物の設定もフィクションにしたんですが、火事になる前の状態そのままに書き直しました。全て書き上げるまでに3ヶ月くらいかかりましたね。

●あ!そういえばさっきの編集者のお話を聞いて思ったんですが、小説の中に登場するバイクの少年(イマケン)はご自身なんですよね?

■ほら、みんなそう言う!(笑)それもよく言われるんですよー。

●いやだって、バイク好きな少年がやがて出版社に勤務する流れとか・・・

■いえいえ。僕じゃないんです。さっきの悦子さんも含め、全員架空なんです。でも何故か現実をそのまま書いたと思われるんですよね。リアリティを感じて下さっているのは嬉しいんですけどね。

●ちなみに悦子さんが「おいしくなーれ」というおまじないをかけますが、あれはどこで着想したんですか?

■あれはねぇ、実際の店でママさんに「このコーヒー美味しいですね」と言ったら「おいしくなると思っていれてるからよ」と言われて、ああ、面白いなぁと思って。といっても実際におまじないをかけている訳じゃないですよ。心の中で思って淹れてくれてると思うんですよね。だから実際においしいんです。

●あ、そういえば最新刊も舞台が喫茶店とお聞きしました。

■そうなんです。「癒し屋キリコの約束」という小説なんですが、歌謡喫茶「昭和堂」というお店が舞台になっています。そこのオーナーが淹れるコーヒーはくそマズイんですけど(笑)、そこで雇われた女の子が淹れるコーヒーはすごくおいしくて、それは淹れ方に秘密があって。その淹れ方というのが、実は「岬カフェ」の悦子さんに習っているという設定で。そんな作品間での繋がりもあるんです。

●ええー!そうなんですか?

■そうなんです。読む人が読めばわかるという。

●じゃあ喫茶ファンの方は、ぜひ2冊合わせて読んで頂きたいですね!

■ぜひぜひ。

●それでは、最後にカフェトラをご覧になっているユーザーのみなさんに、ひと言お願いします。

■原作の「虹の岬の喫茶店」は、幸せの本質って何だろう?ってところを考えながら書きました。幸せはなるものではなく、気づくもの。誰かを幸せにすると、今度は自分が幸せにしてもらえる。まさに、「幸せのキャッチボール」なんです。映画と小説はいとこぐらいの距離感はありますが、どちらも楽しんで頂いて、みなさんも「幸せのキャッチボール」をして頂ければと思います。

●わかりました!森沢さん、本日はどうもありがとうございました!!

さて、森沢さんのインタビュー、いかがでしたでしょうか。
この日の森沢さんは、大阪から福岡に入られて、その日のうちに東京戻りという超タイトなスケジュールの中での取材でしたが、とても気さくにお話して下さいました。
福岡のカフェや喫茶店で「ふしぎな岬の物語」の応援キャンペーンをやっていることをお伝えすると、とても喜んでおられましたよ。最新作の「癒し屋キリコの約束」もぜひチェックしてみて下さいね!
取材・写真/久原茂保(CAFE@TRIBE) 取材協力/Cafeゆう 福岡天神
★映画「ふしぎな岬の物語」公式サイトはこちら!
★CAFE@TRIBE×福岡カフェ「ふしぎな岬の物語」応援キャンペーンサイトはこちら!

悲しみを希望にかえる場所がある。
喫茶店での一期一会が人生に光をもたらす、感涙の長編小説!!

虹の岬の喫茶店  森沢明夫 著 定価648円+税

【あらすじ】
 トンネルを抜けたら、ガードレールの切れ目をすぐ左折。雑草の生える荒地を進むと、小さな岬の先端に、ふいに喫茶店が現れる。そこには、とびきりおいしいコーヒーとお客さんの人生にそっと寄り添うような音楽を選曲してくれる女店主がいた。彼女は一人で喫茶店を切り盛りしながら、ときおり窓から海を眺め、「何か」を待ち続けていた。
 その喫茶店に引き寄せられるように集まる人々――妻をなくしたばかりの夫と幼い娘、卒業後の進路に悩む男子大学生、やむにやまれぬ事情で喫茶店へ盗みに入った泥棒、女店主にほのかな恋心を寄せる会社の重役、青春時代にしこりを残した「バンドの解散」に向き合おうとする女店主の甥――。彼らは、その喫茶店と女店主に出逢うことで、心の傷が少しずつ癒され、やがて新たな人生を踏み出そうとする。そして最終章、女店主が一人ぼっちで喫茶店を営み続けてきた切ない理由が明らかに。

千葉県出身の作家が、千葉県に実在したカフェをモチーフに物語を執筆
著者は、映画化された「津軽百年食堂」や高倉健さん主演「あなたへ」の小説を手掛けた森沢明夫さん。「津軽百年食堂」では、青森に実在する百年食堂を舞台に、優しさと人情に溢れた、人と人との絆の物語を紡ぎました。「あなたへ」では、妻を失った男の哀愁と妻への愛を綴りました。今回はご自身の出身地でもあり、大好きな千葉県に実在する「喫茶岬」をモチーフに、物語を執筆しました。

「喫茶岬」とは……
千葉県の明鐘岬の先端にある喫茶店。特異な立地にもかかわらず、釣りやバイク好きのなかでは知る人ぞ知るお店で、お忍びで訪れる有名人もいる。雨漏りや故障などがあるたびに、お客さんが善意で修理などをしてくれるので、喫茶店はいびつな増改築を繰り返したユニークな建物になっている。今年初めに火事があったが、お客さんの助けで現在営業を再開している。

吉永小百合さんが、惚れ込んだ小説で、
10月11日に「ふしぎな岬の物語」というタイトルで映画化されます。
森沢明夫(もりさわ あきお)
1969年、千葉県生まれ。『ラストサムライ 片目のチャンピオン武田幸三』で第17回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。小説、エッセイ、ノンフィクション、絵本と幅広い分野で活躍。著書に『癒し屋キリコの約束』『大事なことほど小声でささやく』『ライアの祈り』『ミーコの宝箱』『夏美のホタル』など。
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