今回もまた、だいぶ間が空いてしまって申し訳ありません。
今年になっても相変わらず忙しく、1月はグアテマラとホンジュラスを回り、2月は東京への長期出張、3月はコロンビアカップオブエクセレンスの審査会(写真)に続いて、コスタリカと再度ホンジュラスへ行き、4月はアメリカ・アトランタで行われたSCAA(アメリカ・スペシャルティコーヒー協会のカンファレンス)とWBC(ワールドバリスタチャンピオンシップ)に、そして5月はコスタリカのカップオブエクセレンスの審査会へと、慌しい日が続いていました。今回も宜しくお願いいたしますね。

コロンビア審査会の前日、
カリブレーションの様子。


ハニーおやじ:ところで、どう?西岡君、復習は進んだ?
西岡:ヘイっす。ばっちりっすよ。
ハニーおやじ:ほう。なかなかやるじゃん。
西岡:有難うございます。だいぶわかってきたっす。今日は何でしたっけ?
ハニーおやじ:おう、そうね。今日は残りの二つの精製法だったよね。ところで、その二つって何だっけ?
西岡:まかしといてくださいよ。パルプトナチュラルとパルプト・デス・ムシラージドでしょ?
ハニーおやじ:お!ちゃんと覚えとーやんか。珍しいな。
西岡:・・・!?
ハニーおやじ:ところで、西岡君は産地に行ったことはあったっけ?
西岡:いや、ないっす。でもうちの庄司美杉を一度、井崎さんたちがコスタリカとパナマに行ったときに連れて行ってもらいました。
ハニーおやじ:そうだったよね、日本でコーヒーの生豆の生産を商業ベースでしているところはないので、そもそもコーヒーの木がどんなものかも知らないし、どうやってコーヒーに仕上げていくのかを知らない人が殆どだと思うんだよね。まして精製方法の詳しいことになると、全くと言って良いほど知らないだろうね。以前、コーヒーマニアのような人がきて、『お宅のブラジルってムンドボーノ(正しくはムンドノーボだが、その人はそう発音していた)? 自分はそれしか飲まないし、その品種が一番美味いんだ。』お前はそんなことも知らないのか、みたいな顔をされて、結局何も買わずに帰った人がいたけど、コーヒーの味は品種だけで決まるものではなく、同じ品種でも、標高、日当たり、土壌、ごく狭い範囲の空気の流れ(マイクロクライメイトと言う)、などいろんな要素が絡み合って微妙に変化するものなんだ。写真はボリビアの農家でのひとコマですが、この写真は完熟チェリーの見本のようなもんだね。
西岡:そうなんっすよね。僕もSCAJのセミナーに行ったりとか、井崎さんから教えてもらったりしてるんで、少しは知ってるんっすけど、カフェをやってる人でも、あんまり知っていない人も多いからビックリっすよ。
ハニーおやじ:そうみたいね。まあ、それはさておき、早速残りの二つの精製方法を説明しようか。
西岡:宜しくお願いしまっす。
ハニーおやじ
:じゃあ、先ずはパルプトナチュラルから行こう。ナチュラルの作り方は覚えてるよね。

西岡:はい、収穫した実のまんま干すやり方っすよね。ブラジルの殆どがこのやり方って聞きました。
ハニーおやじ:そうなんだ。で、これから説明するパルプトナチュラルは、皮を剥くだけで、粘液質を残したまま干すやり方なんだね。フリーウォッシュトというのは、チェリーの皮を剥いた後、発酵槽に十数時間から三十時間近く漬けて粘液質(ムシラージ)が取れ易くなってから、細い水路に水と一緒に流し、粘液質を取ってから干すやり方だったけど、なぜか、後になって出てきたこのパルプトナチュラルは、剥いてからそのまま干すんだよね。ナチュラルの場合は皮がついたまま干すので、より甘くなると言われているんだけど、クリーンカップのものを作るのが非常に難しい。だけど、このパルプトナチュラルは、グリーンセパレーターを使えば、未熟豆や未完熟豆をかなりの割合で排除できるので、ナチュラルに比較して、品質の向上がし易いんだね。それとフリーウォッシュトよりも甘みのある粘液質が残ったまま干すので、甘みも増すはずだと言われているんだ。
ボリビアにて。これが完熟した豆。

西岡:そうっすよね。ブラジルの場合、カップオブエクセレンスに入賞するのは、殆どと言って良いぐらい、このパルプトナチュラルっすよね。
ハニーおやじ:そうなんだ。特にブラジルでは先ほど言ったグリーンセパレーターが開発されてから、飛躍的に品質が向上したんだよ。嘘みたいにクリーンなコーヒーもあるしね。

西岡:そうっすよね。僕なんかハニーのコーヒーばっか飲んでるから、それが当たり前だと思ってたけど、この前、有名な店のコーヒー豆だって言われてもらったブラジルを飲んだら、本当に不味かったっす。なんて言うんすかね、後口が物凄く悪いって言うか、ザラツキ感があって、後に嫌な味がずっと残るんっすよ。ところで、そのグリーンセパレーターって、どんな機械なんっすか?
ハニーおやじ:口で説明するより写真のほうが分かり易いよね。次の写真がそうだ。

西岡:へえー、なんか単純っすね。
ハニーおやじ:そう、原理は簡単だよ。単に遠心力を利用してるだけだもんね。要するに、熟度が高いと、ちょっと端っこをつまむとプリッと剥けるだろ?その性質を利用してるだけなんだよね。よく見ると、ドラムの中に緑色や薄い赤のものが混じってるだろう?あれは未熟や未完熟豆で、味を悪くする原因なんだね。特に未完熟豆なんて、生豆として出来てしまえば、見かけでは全く分からなくなってしまうからね厄介なんだよね。

西岡:パルプトナチュラルって他の国じゃやってないんっすか?
ハニーおやじ:いや、最近少しずつ増えてるよ。コスタリカやパナマでもやってるところが増えてきてるね。コスタリカなんかでは、パルプトナチュラルのことを「ハニーコーヒー」って言うから笑っちゃうよね。向こうの人は「ホニーコーヒー」って発音するけどね。初めて買ったとき、麻袋の上のほうに「HONEYCOFFEE」って書いてあったときは、「いつもは『MIKATAJUKU』って書いてあるのに、何でうちの名前が入ってるんだろう?」と思ったけど、それは、パルプトナチュラルのことだったんだよね。

西岡:そうだったんっすか。良く分かったっす。そいじゃ、最後のパルプトデスムシラージドってのをお願いしまっす!
ハニーおやじ:OK。パルプトデスムシラージドって言うのは、実は粘液質を強制的に剥がすやり方のことを言うんだ。タンザニアなんかはこのやり方だね。簡単に言うと、パーチメントの表面に付いている、ぬるぬるしたもの(熟度の高い豆はブリックス計で計ると22以上あることもある)を、強制的に取ってから乾燥させるやり方なんだ。

西岡:へえ〜、でもなんでわざわざそんな面倒くさいことをやるんっすか。
ハニーおやじ:それは単純には言えないと思うよ。それぞれの国の気候状態や運搬にかかる時間の問題も含めて考えないと。勿論環境問題もね。だから、これまでやってきたことから説明すると、先ずチェリーが来る、それを剥く、そしてその剥いたものをデスパルパードと言う機械にかけてムシラージを取り除く、そしてそれを干す。そういうことになるね。で、その機械だけど、下の写真のようなものさ。中は硬く見えるけど、柔らかいプラスチックのようなもので、パーチメントに傷をつけないようになっているんだ。


ハニーおやじ:どのやり方が一番良いのかと言うのは、それぞれの国、地域によって条件が異なるから、一概に言えないと思う。でも、各国のスペシャルティコーヒーに取り組んでいる熱心な生産者は、常にあらゆるやり方を研究していると思って良いと思うよ。

西岡:そんなんっすか。今日もまた勉強になりました。ありがとうございました。
ハニーおやじ:いやいや。ただ、いつも言っていることだけど、もうこれで俺たちはだいぶ知ってるぞ、などと思ってはいけないと思うんだ。君たちカフェの人たちは、どうすれば美味しいエスプレッソを淹れることが出来るかどうかを日々追求してるし、我々焙煎する側は、どうしたらもっと良い原料(生豆)を手に入れることが出来るか、どうしたら、もっと原料の持つ良さを引き出せる焙煎が出来るか、などを日々研究しているんだよね。だから毎年5回も6回も産地に、しかも、大抵は毎回同じところに行って関係作りをやっている訳なんだ。中には産地に行ったことがあると言って自慢してる人もいるようだけど、それは、例えば一回や二回お茶の産地に行って農家を案内してもらい、茶畑を見て、隣接している製茶工場を見せてもらったとして、それで、どこの農家が一番美味しいお茶を作るのか、どういう処理方法がそこの地域のお茶に向いているのか、毎年継続して良いものを売ってもらうにはどうしたら良いか、などといったことは、一回や二回行ったぐらいでは何も分からないよね。それを知るためには、同じ農園に足繁く通って、こちらを知ってもらい、友人のようになって、初めて少しづつ分かってくるものなんだよ。だから何度も何度も通い続けなければならないんだ。

上の写真は、去年ボリビアに行ったときのものだけど、何度となく通って、ようやく心を開いてくれるものなんだよね。 実は、今までに何十回となく産地に行っているのに、今回初めて知ったこともあるんだよ。産地も年々技術的にも進歩しているから、行く度に新しい発見があり、新しい刺激を受ける。だから行くのは止められない面もあるし、行かなければ何の収穫もない。スペシャルティコーヒーに携わる上で最も大事なことは、探究心を忘れず、且つ謙虚であり続けることだと思う。

西岡:分かりました。いつもありがとうございました。でも、謙虚な心を失うって、自分じゃ気が付かないことが多いっすよね。僕がそうなったら怒って下さい。
ハニーおやじ:了解。本当に君が言っているように、慢心は全く自分が気が付かないから厄介だね。これからも、ひたむきに努力していくことが大事だと思う。頑張りましょう。


以上で、精製処理編は終わりです。現在、世界の生産国で行われている主な処理方法についてご紹介させて頂きました。コーヒーの豆屋をされてる方でも、ご存じない方がいらっしゃるかもしれませんので、そういう方の手助けに少しでもなればとも思います。
これからも「ハニーとマヌの面白珈琲談義」では、スペシャルティコーヒーの最先端の話題を盛り込んで続けて参りたいと存じますので、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
なお、万が一、記述の中に誤りがあった場合は、御指摘頂ければ、幣方で調べた上で、直ちに修正させて頂きます。
次回からは、各国の農場の様子をご紹介していくつもりです。お楽しみに。

ハニー珈琲:井崎克英プロフィール
1953年、福岡県出身。1977年から小中学生向けの学習塾『高陵学園』を南区に設立。効率的な授業システムの構築に情熱を注ぐが、1996年南区野間ダイエーのコーヒー豆専門店『ハニー珈琲』の経営を頼まれ、権利を買い取り全く畑違いの道に進 む。2001年、スペシャルティコーヒーと言われる素晴らしいコーヒーを手に入れたく、創成期の『珈琲の味方塾』に参加。以来「本当に美味しいコーヒーとは何か」を常に追い求めながら現在に至る。なお、ハニー珈琲の全てのコーヒー豆はスペシャルティコーヒーになっている。

manu coffee :西岡総司プロフィール
1975年、長崎県出身。1997年頃より現在のmanu coffeeのスタッフ達に出会う。2001年に「師匠」と仰ぐハニー珈琲の井崎氏と出会い、スペシャルティコーヒーの存在を知る。2002年に独立し、2003年にはmanu coffee春吉店、舞鶴店の2店舗をOPEN。その後も気の合う仲間と出会いを重ね、現在スペシャルティコーヒーに没頭中。2006年に開催されたカフェトラグランプリ「最強の珈琲選手権」ではなみいる名店を押さえ、第1位を獲得。そのクオリティには高い評価を得ている。


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